寅さんシリーズが始まり、50周年。50作目となる「男はつらいよ お帰り 寅さん」が12月27日、公開される。寅さんの後ろ姿を追い、週刊朝日ムック「わたしの寅さん 男はつらいよ50周年」(朝日新聞出版)を監修した新聞記者・小泉信一が、山田洋次監督らとの対話を振り返る。
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第1作、第2作、第3作……。1969(昭和44)年に始まった映画「男はつらいよ」シリーズがヒットを重ね、盆と暮れの年2回の上映が定番となったころなので70年代初めだろう。主人公の車寅次郎を演じた故・渥美清さんはこんなことを語っていた。
「私という独楽(こま)が山田洋次さんという独楽にぶつかって勢いよく回り始めたような気がします」
すでにそのころには、あの映画との出会いがのちの人生観に決定的な影響を及ぼした、という人も多い。
津市に住む映画評論家・吉村英夫さん(79)もリアルタイム世代だ。第1作公開から5日目の69年8月31日に名古屋の映画館で鑑賞。当時の印象をこう記している。
「がつーんと頭を叩かれた気分になった。渥美清が朗々と発する早口での鮮やかな口上のリズム感が圧倒的だった。映画館を出て街を歩きながら、顔を綻ばせて口ずさんでいた」(河出文庫『ヘタな人生論より「寅さん」のひと言』)
同書は、寅さんの魅力をこんなふうに説いている。
<しばられず、とらわれずに生きる>
<論理や理屈でなく、正直に生きる>
<権威や肩書に頼らず生きる>
<自分の「愚」を知って生きる>
<勝ち負けのモノサシを捨てて生きる>
<人に温かく生きる>
第1作が公開されて今年で50年。12月27日には22年ぶり50作目の新作が公開される。
今年10月、東京での試写会で作品を鑑賞した吉村さんは、山田洋次監督(88)のもとを訪ねた。「50年が過ぎたのですね。半世紀です!」。そう言って握手したきり涙があふれ、大声で泣いてしまったという。
50年の歩みは、1本の長い記録映画に例えることができるかもしれない。渥美さんはもちろん、妹さくら役の倍賞千恵子さんら共演者やスタッフがそれぞれ与えられた役割を守り続けてきたことも大きかった。