2020年東京五輪で活躍が期待される選手を紹介する連載「2020の肖像」。第10回は、卓球男子・張本智和。16歳の高校1年生が日本卓球界の期待を背負い、2020年東京五輪に向かう。中国が絶対的な強さを見せ続けているのが、この競技。国内外の大会で数々の最年少記録を塗り替えてきた早熟のエースは、この秋、打倒中国に向けて一つの成長を見せた。朝日新聞社スポーツ部・吉永岳央氏が、張本の活躍の裏にあった苦悩に迫る。
【写真】ジュニアの部で史上最年少の8強入りを果たした時の張本智和
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敗れたというのに、張本の表情は沈んでいなかった。11月に東京体育館で開催されたワールドカップ(W杯)団体戦。日本は準決勝で中国に完敗した。それでも、張本が発したコメントは敗者のそれではなかった。
「悪くはないなっていうのは感じました」
「自分のプレーは、今日はできたと思います」
「フォアハンドで、少しずつ外国人選手に優位に立つことができているなって」
12の国・地域が参加したこの大会は東京五輪のテスト大会を兼ねて開かれ、本番と同じ会場、同じ方式で行われた。最初にダブルス1戦、続いてシングルス4戦の計5戦を行い、先に3勝したチームが勝ちというルール。張本はダブルスには出場せず、シングルス2試合に専念する「エース」としての立場が与えられていた。
本人が会心の出来として振り返る試合がある。準々決勝のドイツ戦だ。2‐1と日本リードで迎えた第4戦のシングルスに臨んだ張本は、1ゲーム目を取られたが、慌てない。ここから3ゲームを連取し、チームを準決勝進出に導いた。
「(大会の中で)あまり目立つ試合ではなかったんですけど、自分の中では手応えがあったなと」
前向きになれる理由は、フォアハンドの手応えにあった。張本はバックハンドを生命線にしてきた。それが、このW杯ではフォアハンドで海外勢に対抗し、時に劣勢をはね返した。何よりの収穫だった。
準決勝の中国戦、第2戦のシングルスで対したのは、世界ランク1位の樊振東。敗れはしたが、やはりフォアハンドの打ち合いで互角に渡り合う場面を何度も作って会場を沸かせた。