財政悪化などを口実に水害対策が先送りされてきたこともはっきりした。国交省の資料によると、治水事業等関係費は1998年度には2兆円近くに達したがその後減少し、ここ数年は1兆円前後となっている。

 国交省によると河川整備計画で堤防が必要なのになかったり、基準に達していなかったりするところが、今年3月末時点で3割もある。予算不足や用地取得に時間がかかっていることなどが理由だ。堤防整備は水害対策の基本なのに十分には進んでいない。

 ところが、ネット上を中心に、東京都心などで大規模浸水がなかったのはダムなど巨額の治水工事のおかげだといった主張が流布された。民主党政権で「コンクリートから人へ」のスローガンのもと公共工事が抑制されたことを批判する意見も目立った。実際は自民党政権下でも抑制傾向は続き、治水事業等関係費は今でもピークの半分ほどだ。

 建設中止問題が注目された八ツ場ダム(群馬県長野原町)を称賛する動きもある。国交省は利根川の越水回避に役だったとするが詳しい検証はこれから。大孝・新潟大学名誉教授(河川工学)はこう指摘する。

「八ツ場ダムが本当に利根川の氾濫防止に機能したのか、下流のピークをどれだけ抑えられたのかの検証はこれからです。台風19号では全国各地の河川で堤防が決壊し、地盤が低いところが激甚な被害を受けました。特に、長野の千曲川が決壊した箇所は、70メートルにわたって堤防が低くなっていました。なぜ、もっと早く堤防を改修しなかったのかという問題も、これから明らかにされなければなりません」

 今回、千曲川が破堤したところは、過去に何度も氾濫を起こしている。過去最大は1742年に起きた「寛保2年の大洪水」で、氾濫水位は5メートルを超えていた。新幹線の車両基地は2メートル盛り土して排水ポンプも備えていたが、新幹線120両が水没してしまった。

次のページ
ダムには緊急放流で洪水を引き起こすリスクもある