こうした巨額の出費見込みに対する住民の備えは修繕積立金・積立基金のみだ。果たして必要な金額を確保できているのか。
冒頭のケースのように、定期的に修繕積立金が上がっていくのは「段階増額積立方式」と呼ばれ、新築マンションはタワマンに限らずほとんどがこの方式を採用している。
ところが、マンションを買おうとする人は住宅ローンの返済額と管理費、修繕積立金の合計を見て、購入の是非を判断する傾向が強く、そのためディベロッパーは、どうしても当初の修繕積立金を低めに設定したがる。すると、後になってからの値上げ幅がきつくなる。
先の牧野氏は、当面は何とかなっても、予定どおりに値上げできないタワマンが出てくる可能性があるとする。
「値上げ計画を正しく理解し、十分負担できると確認してから買っていればいいのですが、それでも10年、20年先の家計は予想がつきません。管理費と積立金で月5万~6万円とかになってくると、負担に耐えられずに脱落する人が出てくるでしょう」
修繕積立金の値上げは管理組合の総会での決議が必要だ。脱落者が増えると、その決議に黄信号がともり、ひいては大規模修繕が危うくなってくる。
冒頭の二つ目のケース、値上げ計画がないタワマンも構図は同じだ。将来を考えると、いつかは値上げをしなければならない。いつ、だれが言い出すのか……。
■2回目から大変 値上げできるか
先の榊氏は、それでも1回目の大規模修繕でつまずくタワマンはそうそうあるまいとみる。
「仮に値上げできなくても、各戸から一時金を徴収してもいいし、1回目なら銀行借り入れもできるでしょう。むしろ問題は2、3回目です。1回目より工事量が増えるうえ、エレベーターの交換が入るなど、より高額になる可能性が高い。そのころには住民の高齢化も進んでいるとみられますから、年金暮らしではさらなる負担に耐えられない住民も増えてくるでしょう」
2、3回目の大規模修繕で資金が足りなくなる可能性があるとする見方だ。「まだ先のこと」などと悠長に構えていてはいけない。先行きを心配する住民の中には、売却して転居する人も出てくるだろう。それはある種、「早いもの勝ち」だから、いつ始まるか見当がつかない。もっと言うと、いつ始まってもおかしくない。