小堀:あなたは、あのときカメラがひいていく撮り方をしていたけれど。
下村:ズームバックですね。
小堀:突然「こんなことを言いながら死んでいくひとはいますかね」と言い出したんだよね。
下村:わたしもカメラを手にしながら震えがきてしまった。「あっ、わかっていたんだ」と思った。だからこそ迎えのバスに乗っていく場面、一度も振り返らなかった。50年近く暮らした家を出ていくというときに一度も。
──説明みたいなテロップもないため、観ている側が考えさせられる場面です。
下村:観る立場によって解釈が異なるかもしれない。疑問に思ったり、ひっかかったりすることがそれぞれ異なる作品にしたかったんですね。
小堀:このことがあって医療番組を意識して見るようになったんですが、なんとなく結論が最初からあるものが多い。つまり「在宅死」は理想的な死で、「病院死」は悲惨だと。たしかにそういう一面もあるんだけれども、逆もある。この映画は決めつけてしまうところがない。それがいちばんの特色だと思いますね。だって介護ベッドを入れ態勢を整えれば、おばあちゃんが幸せになると思ったら、暗い表情で「もう来ないで」と風呂に入れようとする介護スタッフを拒否する。
下村:そうなんですよね。
小堀:では、すべて元に戻せばいいのかというと、そうは言えない。つまり何が正解なのか、一人ひとりの状況に応じて考えていかないといけない、(マニュアル的な)正解がない世界なんです。それは、世の中にいちばん訴えたいところでもありますね。
──ところで撮影期間に聞きたかったけど聞けなかったことはありましたか?
下村:あります。全盲の娘さんが介護しておられた、そのお父さんが亡くなったとき、先生は離れたところに立って見ていられた、あの瞬間何を思っていたんですか?
小堀:ああ、覚えていないんですけどね、いろんなことを考えていたとは思う。
──たしかに、じっと腕組みしておられたのが印象に残りました。
小堀:いろんな人たちがやってきては、枕元で声をかけていたんだよね。