北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
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イラスト/田房永子
イラスト/田房永子

 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は「少女像」について。

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 文化庁があいちトリエンナーレの補助金約7800万円を交付しないと決めた。「少女像」の展示等で生じるリスクを事前に承知していたのに申告しなかったことがその理由。「展示物の内容についてはコメントする立場にない」と文部科学相は強調したが、決定は連日の脅迫を追認する行為にほかならない。この国は、なぜ「慰安婦」問題を受け入れられないのか。

 2015年の日韓合意で、安倍晋三首相は「慰安婦」問題を「不可逆的に解決する」と言い切った。声をあげた性暴力被害者は、過去に取り残されるように生きてきた。彼女たちにとって過去とは、過ちを繰り返さないために、加害者が何度でも立ち戻り向き合うべき場所だ。その声を無視し、安倍さんは「金は払う。もう語るな」と「問題」を強制終了させ、ソウルの日本大使館前の「少女像」の撤去を要求したのだ。「少女像」を政争の具にしたのは安倍政権だ。

 あいちトリエンナーレの「少女像」問題は、日本の表現の自由の危機として語られている。もちろんその通りなのだが、それ以前にこれは性暴力問題であり、歴史問題でもある。

 思い出したい。いったい「日韓合意」のとき、どれだけの人が抗議の意思を示しただろう。メディアのほとんどは安倍さんの「妥協」を歓迎し、日韓関係は新しい時代を迎えるのだと前向きに評価した(産経新聞だけが正面批判していて、私は多分初めて産経新聞と意見が合った)。日本大使館前の「少女像」撤去も、日本の要求は伝えましたよ、後は韓国政府の力量次第ですよ、といった上から目線での他人事だった。

 あいちトリエンナーレで排除された「少女像」と、日本大使館前で排除が期待された「少女像」。いったい、何が違うのだろう。

 日本社会は過去の歴史と性暴力から目をそむけつづけてきた。そのことによってこの社会は民主主義の理想や人権意識からかけはなれ、世界から孤立しようとしているのではないか。

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