放送作家・鈴木おさむ氏の『週刊朝日』連載、『1970年代生まれの団ジュニたちへ』。今回は「大喜鵬」について。
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先日、一人の力士が引退しました。大喜鵬という力士。30歳。
高校は鳥取城北(鳥取市・私立)という、相撲ではかなり有名な学校。そこで1年生ながら高校横綱になるという快挙。そのあと、日大相撲部に入り、そこでも大活躍。優勝を重ねて、主将も務め、アマチュア時代に19個のタイトルを取るという輝かしすぎる記録を持って、大相撲の世界に。横綱白鵬の内弟子として、宮城野部屋に入ってきました。
2012年3月に入門し、僕はこの頃に知り合いました。とても明るい性格で、頭もよい。そして強い。入門してからなんと1年ちょっとで幕内になるというスピード出世。学生時代からスターであった彼は、大相撲の世界でも猛スピードで上がっていった。
が、ケガと病気に悩まされる。入門して3年後に、甲状腺疾患の「バセドウ病」と診断されたのだ。僕の周りにも数人、バセドウ病になった人がいるが、治すのにかなり苦労している。なので、バセドウ病と聞いた時は、「もう駄目かも」と僕も思ったし、彼自身も一番感じただろう。だが、投薬治療が効果を上げて、再び土俵に戻る。
努力して体を作り、病気と闘いながらも勝ちを重ねて、「幕内在位歴のある力士が幕下以下で全敗を記録し、その後に関取の地位での勝ち越し」という史上初の記録を作ったのだ。
が、そのあと、調子が振るわず、また番付を下げていく。17年に結婚もし、子供を授かった。子供のためにもがんばる!と言っていたが、再び関取に戻ることはなかった。そして、引退を決めた。
学生時代にとんでもない逸材だった彼。相撲界に入ってからも、猛スピードだったのに、病気やケガ、そして後輩の活躍。様々な要素が彼を苦しめていく。親方株は持っていないので、引退した後は、相撲の仕事につくのか? それとも働くのか? 考えていることだろう。