長野県飯田市の保育園で行われた県による立ち入り調査
長野県飯田市の保育園で行われた県による立ち入り調査
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調査によって保育園で見つかった石綿
調査によって保育園で見つかった石綿

「まさかアスベスト(石綿)なんてないよな……」

【写真】調査によって保育園で見つかった石綿

 6歳の娘を長野県飯田市の明星保育園に預けている男性(56)は、2018年12月20日夜に、電話で何げなくそう口にした。相手は保育園の保護者会役員の知人。卒園準備の打ち合わせで、園舎の改修工事が話題に上った。お互い「まさかね」と笑い飛ばした。

 翌日子どもを送りに行った別の保護者から、「作業員がすごい格好で工事してる」と男性に連絡が入った。保育園を訪れると、ちょうど防護服に防じんマスクの作業員が園舎から出てきたという。

 驚いて園長に聞くと、天井裏に吹き付けられた石綿があるのに天井板を撤去したことを認めた。石綿は鉱物繊維で細さは髪の毛の約5千分の1。浮遊していても目に見えない。吸い込めば肺にとどまり、長い時間をかけて中皮腫などを発症させることがある。

 複数の保護者は保育園側の対応に疑問を示す。石綿飛散の可能性があったのに、大気汚染防止法(大防法)などに基づく調査や届け出をしていなかったためだ。工事日には園児や職員もいて、将来の健康被害の不安がある。冒頭の男性は怒りを隠さない。

「天井板を撤去しても法的に大丈夫なのかと、園長と業者は何度も話し合っていました。それなのに、子どものいる場所で石綿を飛散させたのです」

 県の調査で、吹き付け石綿の破片が部屋の隅に散乱していたことがわかった。違法工事によって、園児約120人と職員約30人が石綿を吸い込んだ恐れがある。

 さらに保育園では12~13年の耐震補強工事でも、適切な対策をしないまま吹き付け石綿の一部を除去していた。以前の工事でも、園児が石綿にさらされた可能性が高い。

 飯田労働基準監督署は、労働安全衛生法(安衛法)の石綿障害予防規則(石綿則)に違反したとして施工したトライネット(飯田市)を指導。長野県も大防法の違反で同社や鈴木建築設計事務所(同)、保育園を指導した。

 保育園や業者は規制のルールを知らなかったと釈明する。報告を受けた県も同じ見解だ。これに対し、保護者らは、発注者、設計者、施工業者ともに違法性を認識していたのに、あえて工事をしたのではないかと主張している。ある石綿除去業者はこう指摘する。

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