五木さんは文壇でも酒豪でならしていたはず。そんなに旨いならもっと飲めばいいのに、なぜこんな少量の酒と思って、気づきました。論語の「七十にして、心の欲する所に従えども矩(のり)を踰(こ)えず」なのです。五木さんはその境地に入られているのです。私など2合の酒を飲み干して、さらにおかわりが欲しくなる始末です。4歳の違いは大きいと思いました。
年上の人と付き合うと自分はまだまだだと学ぶことができます。それだけでなく、心の安らぎを得ることもできます。
先日、5歳ほど年上の太極拳の師範とお会いしました。お弟子さんたちの前で二人で演舞をしたのです。太極拳で大事なのは流れるようなダイナミズムです。そのつもりで舞うと、私の方が早くなってしまうのです。同じ向きであるはずが、時には向かい合ってしまうことも。ところが、師範の一挙手一投足からは終始、優しさが溢れ出ていました。それを感じて、私よりも一歩も二歩も先を歩む先輩のありがたさが心に響きました。まさに後輩冥利です。
※週刊朝日 2019年9月20日号