作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回はNetflixドラマ「全裸監督」について。
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共学高校(しかも男子が圧倒的多数)に通っていて何が地獄だったかと言えば、男子が教室で普通にAVの話をしていたことだった。80年代後半の日本だ。AV女優がテレビに出はじめていて、中でもわき毛を見せ不思議な笑みを浮かべる黒木香は突出していた。
Netflixドラマ「全裸監督」が話題だ。AV監督の村西とおると黒木香の人生を交差するように描き、日本のAV業界に生きる人々を描く群像劇だ。表だって評価しにくい人物を魅力的に描き、中毒性のあるドラマに仕上がった。村西監督はAVに「本番」を取り入れた改革者として知られている。80年代、AVの洗礼を受けた若者たち(今50歳前後)にとって、このドラマは「自分たちの青春物語」であろう。
ドラマ公開前、「黒木香が成し遂げたことをフェミニズムの視点で語って」という依頼があった。黒木さん自身が「忘れられたい人」であったことを理由に断ったが、なぜフェミの視点を求められたのか謎だったので、ドラマを全て観た。
ドラマの中で黒木香は、親の価値観から解放されるためにAVに出演し、自らの言葉で性を語る有名大現役学生として一世を風靡する。確かにそれは「主体的に性を生き、自ら人生を切り拓いた」とフェミ的に語るのは可能なのだろう。
でも……。私たちの時は、黒木香全盛期で止まっていない。黒木さんは94年に自殺未遂をした、と報道されている。その後、自身の作品の再販に関し損害賠償を求める訴えを起こした。そもそも2015年にAV出演強要が発覚した後の日本で、AV業界のエンタメドラマが大ヒットすることに、鈍い痛みを感じずにはいられない。
強要事件後、私はAV出演強要被害者を支援するNPOに関わっている。会には連日のように悲痛な声が届く。出演強要以上に、ネットに流出している自分の映像を消してほしいという相談が圧倒的多数だ。なかには数十年前の相談もある。