大けがから復活した主将が一人気を吐いた。
16日に行われた第101回全国高校野球選手権大会3回戦で、優勝候補の東海大相模(神奈川)は、中京学院大中京(岐阜)に4―9で逆転負けを喫した。そのなかで、主将の井上恵輔は、5打数4安打3打点、1本塁打と奮闘した。
神奈川大会では決勝の新記録となる24点を挙げるなど、圧倒的な打力で勝ち抜いてきた。だが、この日は、「相手に力でねじ伏せられてしまった」と門馬敬治監督は振り返る。全国制覇した2015年以来の8強入りはならなかった。
だが、井上は1点を追う三回2死二塁から左前適時打で同点。六回には左中間に一時勝ち越しとなるソロ本塁打を放った。
「先頭だったので流れをつくろうという気持ちで打席に入った」
大けがからの出発だった。今年4月、春季県大会であごに死球を受け、救急搬送された。診断結果はあごの骨8ケ所が折れる複雑骨折だったという。
早期復帰のために手術を受ける決断を下した。
「仲間の支えがあったから」
そうしきりに口にするのは、こうした苦しいときを支えてくれた仲間がいたからだ。
すぐに実戦復帰を果たし、甲子園出場に大きく貢献した。
目標は日本一。しかし、試合は苦しい展開だった。
井上の一発で流れをつかみかけた直後の七回、中京学院大中京に先頭から3連打を浴びた。1死後に今度は4連打。2死後にも適時二塁打と、打者11人8安打の集中打で7点を許した。
「自分たちの課題であったところが全て出てしまった」
守りのミスも重なり、相手の勢いを止められなかった。
5点差で迎えた最終回、井上は打席で終始笑顔を見せた。
「攻める気持ちを忘れずに、どんどん振っていこうと思った」
東海大相模の掲げる「アグレッシブ・ベースボール」を体現した。
1死一塁から右前安打を放ってつないだ。だが、後が続かなかった。
主将として、名門の重責も背負ってきた。
「自分がキャプテンとしてやっていていいのか」
苦悩の連続だった。それでも、この夏、プレッシャーはなかったという。
「このチームは、3年生の皆が主将といってもいい。プレッシャーを皆で分かち合える仲間」
皆で戦ってきた夏、そして高校生活最後の試合。
「ここまできたんだ。泣かずにいこう」
試合後も、明るく仲間たちに声をかけた。笑顔のはずだった。
それなのに、なぜだか急に涙があふれてきた。目は真っ赤になった。
「後輩たちには借りを返しにきてほしいです」(本誌・田中将介)
※週刊朝日オンライン限定記事