その多くは、“違法操業”だ。商売で客を乗せて沖合で散骨する場合は、不定期航路事業の許可・登録が必要だ。釣り人を乗せて漁場へ行く遊漁船では旅客を伴う散骨はできない。船長は「白タク業者のようなもの」と言う。

 ただし、抜け穴もある。「委託散骨」というかたちで、家族から遺骨を預かり、船舶業者が沖合で散骨する分には、不定期航路事業の許可・登録が不要。これらを取り締まる法律はない。そもそも海洋散骨を取り締まる法律はない。

「1987年に石原裕次郎さんが亡くなったとき、兄の慎太郎さんが『海を愛した弟の骨を海に撒きたい』と散骨を希望しましたが、当時は墓地埋葬法があるため、ダメだと考えられていました。91年に法務省が『葬送のための祭祀で節度を持って行われる限り違法ではない』という解釈を示して以降、散骨は自由にできるようになったんです」(島田氏)

 もちろん、節度は求められる。近海には漁業権が設定されているため、静岡県熱海市では10キロ以上離れた海域で行うよう、ガイドラインを定めている。

「漁獲量の減少や後継者不足を受けて、漁協をあげて散骨事業を始めるところもある」(船長)

 本誌は甲斐氏が行う海洋散骨の現場にも同行させてもらった。船長の船で30分ほどかけて茅ケ崎港から沖合10キロの地点へ。甲斐氏は一礼した後、水溶性の紙袋に包まれた遺骨を撒き、花びらと小瓶の日本酒を海に注いでいった。

 わずかな船のエンジン音と波音に紛れて遺骨が散り散りになっていくさまは、少々はかない。だが、家族を連れ立って散骨する場合は、趣が一変するという。

「40代の息子さんを亡くした家族は、妹さんが『兄はゲームが好きだったから』とスーパーマリオのテーマソングをCDに入れて持参されました。静かな洋上でマリオの曲を大音量で流しながら、みんなでお兄さんの遺骨を撒いたんです。そのほかにも、『母が好きだったので』と家族みんなでドリカムの『決戦は金曜日』を合唱される家族もいました」(甲斐氏)

 粉骨・散骨の需要は今後も増え続けると予想される。お墓を必要としない家族が増え続けているためだ。

「東京都の小平霊園では2012年度から共同で遺骨を埋葬する樹林墓地、14年度から個別に遺骨を埋葬する樹木墓地の募集を開始しましたが、その倍率は10倍を超えている」(島田氏)

 だが、散骨は後になって大半の家族が後悔しがちな点は留意したい。

「散骨した家族の6割が後悔する。『少しでも遺骨を手元に残しておけばよかった』と。散骨してしまうと、故人と語らう場所を失ってしまうんです」(同)

 まだまだ課題は多い。

週刊朝日  2019年8月16日‐23日合併号