千里鶯啼いて緑紅に映ず水村山郭酒旗の風 南朝四百八十寺 多少の楼台煙雨の中
春宵一刻値千金という言葉があります。中国の蘇軾(そしょく)の詩「春夜」の次の一節が由来です。
春宵一刻直千金 花有清香月有陰(春の宵は一刻に千金の値打ちがある。花は清らかに香りを放ち、月はおぼろに霞んでいる)
もう30年以上も前になりますが、中国医学を学ぶようになり中国に出かけることが多くなった頃、上海の目抜き通りのレストランで瀧廉太郎作曲の「花」が流れてきました。「春のうららの隅田川」で始まる曲です。この「花」の3番の歌詞は蘇軾の詩がベースになっています。
窓の外には木蓮の花。瀧廉太郎の曲を聴きながら、蘇軾の「春宵一刻直千金」のフレーズが浮かんできました。春の訪れをかけがえなく感じた一瞬でした。今でもそのときのことを覚えています。
日本には四季があるというのが、素晴らしいですね。その季節の移ろいを感じるのは、まさに値千金の価値があります。
年をとると一年がたつのが早い、あっという間に時間が過ぎてしまうといいます。
しかし、季節の移ろいをじっくり味わえば、もっと日々が充実するのではないでしょうか。
※週刊朝日 2019年8月9日号