要介護になっても家族旅行に出かけよう。旅行に出かけると五感が刺激され、気持ちも前向きになるため、最高のリハビリになるという。そんな実例を紹介しよう。
「車いすごと馬車に乗れたのはよかったねー」
アルバムを眺めながら旅の思い出にひたるのは、『おでかけは最高のリハビリ! 要介護5の母とウィーンを旅する』(雷鳥社)の著者、たかはたゆきこさん(45)と母・浩美さん(72)。
タイトルのとおり、2016年6月23日から8日間、音楽の都、オーストリアの首都ウィーンにゆきこさんの叔母と3人で家族旅行をした。ピアノとバイオリンの音楽教室を自宅で主宰する母が、車の運転中に脳出血で倒れたのは13年2月。幸い意識は戻ったが、重い後遺障害が残った。
「左半身の麻痺と、高次脳機能障害が残り、すべての物の左半分が認識できなくなりました。さらに今、自分がどこにいるのか時間や場所がわからなくなったり、物事が覚えられなくなったり、妄想などの症状があらわれました」(ゆきこさん)
リハビリ病院を経て、在宅で介護するために、要介護認定を受けると「要介護5」。介護サービスが受けられる区分のなかで最も重い「寝たきりの状態で全介助が必要」という状態だ。
しかし、懸命にリハビリをした結果、現在、左半身の麻痺は残るものの、右手でピアノやバイオリンが弾けるまでに回復。日常会話で冗談も言えるようになり、高次脳機能障害の症状は消えた。
奇跡が起こったのだ。
「病気を発症したのは60代なので『要介護5』と言われても、寝たきりのままで余生を過ごすのではなく、少しでも元の生活に戻ってほしかった。在宅介護は人生の終わりじゃない。何よりも、『お出かけは最高のリハビリだ。人生を楽しもう!』と元気なころ、母が口ぐせのように言っていたので、1日1度は外に出ることを日課にしました」(同)
一番下の妹(38)は生まれつき重い脳性麻痺という障がいがあったが、「生き残った脳細胞に刺激を与えて、鍛えれば元気になる」と医師からの助言を実行するために、母は妹を車いすに乗せて、買い物や遊園地、旅行、どこでも連れていった。