1カ月くらい経った頃に姉に聞いてみたら、「もう済んだわ」と答えました。女としての人生を捨て、俳優を取りました。女を捨てて、男になったんです。

 自分が妻でいる限り、一寛さんは子どもに恵まれない。姉はそう考えた。それが離婚の一番大きな原因だと思います。

 姉はなんでも一人で決めるんです。乳がんの手術、瞼(まぶた)の美容整形手術。全部、自分で決めました。友達はたくさんいますが、大事なことは相談しません。姉が言うことを聞くのは、高倉健さんだけでしょうね。

 尊敬する美空ひばりさんに、「真赤な太陽」での赤い衣装は似合わないと言い切っていました。でも健さんにはなにも言えないんです。健さんに「講演の仕事を受けたけど、代わりに出てくれないか」と頼まれて、嫌だったのに嫌と言えずに出演していました。

――麗子の母性本能は甥に注がれたという。

 私の息子をとてもよく可愛がってくれました。月に1~2回は一緒に食事をしたものです。息子が描いた絵を額に入れて飾ってくれてましたね。でも甘やかすことはなく、礼儀作法などにはとてもうるさかった。あんまり口やかましいから息子に煙たがられるんですけど、気にせずに注意をしていました。成長を祈って、きちんと向き合ってくれたことに感謝しています。

 父が亡くなったとき、看取りには間に合いませんでしたが、姉は家に駆け付けて来ました。私は来ないと思っていたんですが……。やはり父からの愛情に飢えていたんでしょうね。

――唯我独尊の俳優が亡くなって10年。改めて天国の姉に言いたいことは? そう尋ねると政光さんはすかさず答えた。

 自分の死後はどうするかといったことを、きちんと書いていてほしかったですよ。何も記すことなく急に亡くなったから、こっちはどれだけ大変だったか。会社のことも税金のことも、私たちは何も知らされていなかったんですから。姉には、終活の大切さを教えてやりたいですね。(構成/本誌・菊地武顕)

週刊朝日  2019年8月2日号

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