「鬼畜の所業だ。被害者は家族に『男に殴られた』などとしきりに訴えていたんだ」
【データ】要介護施設従事者による虐待の相談・通報件数はこんなに増えている!
こう話すのは警視庁の捜査関係者だ。
勤務先の有料老人ホーム(東京都品川区)で入所者の黒沢喜八郎さん(82)を殺害したとして、元介護職員の根本智紀容疑者(28)が5月22日、警視庁に逮捕された。
捜査関係者によると、ホーム内に設置された防犯カメラには信じがたい映像が収められていたという。
映像では4月3日午後8時から、根本容疑者が119番した4日午前1時45分までに、黒沢さんは複数回にわたって背中で床をはうなどして廊下に出てしまっていた。
捜査関係者も思わず目を疑ったのは、黒沢さんが廊下に出るたびに、根本容疑者が足を引っ張って室内に引きずり戻していた場面だった。
別の職員はこの間に、黒沢さんの個室から「痛い。何をするんだ」と叫び声が上がるのを聞いていたという。
家族によると、黒沢さんは体が不自由だった。
東京地検は6月12日、傷害致死の罪で根本容疑者を起訴した。殺人容疑で逮捕されていたが、地検は「殺意を認定できなかった」としている。
「殺人で絶対挙げると捜査を続けたんだが、地検が食わなかった」(警視庁捜査関係者)
厚生労働省は今年3月、介護職員による65歳以上の高齢者への虐待が2017年度に510件あり、過去最多を更新したと発表した。これは実に11年連続の増加で、被害者は認知症の人が約8割を占めている。
家族や親族による虐待も7年ぶりに過去最多を更新し、1万7078件だった。家族などによる事例では、殺人や心中のほか、虐待の疑いなどで死亡したケースが前年度から3人増の28人いた。
調査は、厚労省が高齢者虐待防止法に基づき、毎年実施。17年度に自治体が虐待と判断した件数を集計した。
被害者が複数いる場合があるため、職員による虐待の被害者は854人。82.2%の人には認知症があった。虐待の種類(複数回答)は、暴力や拘束などの身体的虐待が59.8%で最多。暴言などの心理的虐待、介護等放棄と続いた。死亡事例はなかった。