世の中は、年金問題で大騒ぎだ。安倍晋三総理もさぞかし困っていると思うかもしれないが、実はそんなに悪いことばかりではない。
この問題で麻生太郎副総理に批判が集中したおかげで、先般の安倍総理のイラン訪問が世紀の大失敗だったことが霞んでしまった。
そもそも、なぜこの時期にイランを訪問したのかといえば、もちろん、参議院選挙前のパフォーマンスである。「外交の安倍」と訴えてきたのに、ここへきて、その全てが失敗だったということを認めざるを得なくなった。「私とプーチンで領土問題を解決して平和条約を結ぶ」という話はほぼ潰えてしまった。圧力路線を転換して、「私自身が金正恩と直接向き合う」と言ってから1年も経ったが、いまだに全く相手にされない。盟友トランプ大統領には、参院選後に通商交渉で思い切り譲歩すると約束したことをばらされてしまった。今や、頼みの綱は、大嫌いな中国の習近平主席だけという惨状だ。
そこで、目先を変えて、世界が注目するイラン核問題で、対立する米国トランプ大統領とイランの最高指導者ハメネイ師の仲介役を果たそうと考えた。
ところが、イラン訪問中に、米国が対イラン追加制裁を発表し、トランプ氏自身が、対話は時期尚早とツイートする始末。ハメネイ師もトランプと話す気なしとけんもほろろ。さらに日本のタンカーが攻撃を受けて、緊張緩和とは真逆の結果。失敗の3乗である。
安倍総理は、米国と対立する国に、「俺はトランプと仲良しだぞ」と虎の威を借りながら近づくが、結局は「お前、ただのトランプのポチじゃないか」と見切られ、相手にされなくなる。
しかも、今回明らかになったのは、ごく一部のメディアだけが伝えていたが、イランに行く前から、イラン国内では、「アメリカ追従の日本に期待しても無駄」という評価が多かったということだ。これは、実は、安倍総理にとっては、身から出た錆と言ってよい。
日本メディアは、「イランは親日国」とステレオタイプ的な報道を続けたが、はっきり言って、中東における日本の「平和ブランド」「中立イメージ」は、もう崩壊している。日本びいきの人たちから話を聞けば、もちろん良い話が聞けるだろう。だが、反米意識の強い多くの庶民から見れば、もはや日本は中立どころか、「アメリカの犬」と見られている。