

落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「大統領」。
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5月26日、訪日中のトランプ大統領が両国国技館で大相撲観戦をするという。この原稿を書いているのが25日。明日の観戦が何事もなく済んでいることを願います。
私が横須賀のアメリカンスクールにいた頃、同級生にスタンという海兵隊員の子がいた。彼とは一緒に烏骨鶏の飼育係をしていた仲だ。よく二人で産みたての卵を盗み飲みしていたせいか彼は体が大きかった。小2で175センチオーバー。相撲が大好きで高見山に憧れていた彼のあだ名は「マルハチ」だった。
中2で米国へ戻ったので音信が途絶えて30年近くになる。先日彼からエアメールが届いた。「ディア・トシカズ……」彼はその身体を生かして現在SPをしているらしい。「聞いてくれ、トシ。今度プレジデントの警護でジャパンに行くんだよ」スタンはなんとトランプのSPとして訪日に同行するとのこと。世界で一番命が狙われる米大統領のSPということは、世界で一番身体と心の強い男と言ってよいだろう。「竹馬之友」の私も鼻が高いぜ、マルハチ!
「初めてコクギカンにも行けるんだ!! エキサイティングだろ!?」幼い頃から相撲好きの彼だが、生の観戦は未経験。トランプの訪日スケジュールに大相撲観戦が組み込まれていて、もちろん彼も警護のために念願の国技館に足を踏み入れるという。おめでとう、マルハチ! ただそんな機密事項(当時)を私みたいな落語家に洩らしていいの?とも思ったが嬉しさあまって、まさに勇み足マルハチ。
「トシ、ただひとつ俺が残念なのは……」ん? ちょっと雰囲気が変わったぞ。「警護の都合上、土俵に背を向け続けなければならないんだ……こんな皮肉なことがあっていいのか!!」