文部科学省で事務次官を務めた前川喜平氏が、読者からの質問に答える連載「“針路”相談室」。今回は、日本の教育に不満を漏らす女性からの相談です。
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Q:日本の若者は、甘ったれでワガママで貴重な時間を無為に過ごしているように見えます。高学歴でも何のために学んでいるかの自覚が薄いようです。私たちの世代は、親のしつけから、目上の人を敬い、弱い人をサポートする、親に恥をかかせるのはご法度などを徹底してきました。最近の教育について疑問を抱かずにいられません。(高知県・2人の孫を持つ女性)
A:ふうむ、あなたの今の若者についての印象は、私のそれとはずいぶん違いますね。私は、今の若者はワガママというより、むしろ良い子が多い印象です。60~70年代の学生は、世の中に強力に異議を唱えていましたよね。大学にも立て看板(タテカン)があちこちあって、学生運動も盛んだった。だけど今の大学はきれいさっぱりとしたものです。「もっと自由にものを言え」と思う。竹中平蔵教授の授業に異を唱える看板を大学構内に立てた東洋大学の学生がいましたね。あなたはこの青年をワガママだと思うのでしょうか。私は今時珍しいアッパレな青年だと思う。
確かに「今だけ、金だけ、自分だけ」という強欲資本主義がまかり通っている今、大人が子どもに悪い影響を与えてしまっている部分は少なからずあるでしょう。それに、子どもを着せ替え人形のように扱う親や、お稽古や勉強漬けにする“教育虐待”だって見られる時代。「毒親」などという言葉もあるように、家庭教育に問題のあるケースも多いと思います。
ただ、あなたのご意見には、いくつか“決めつけ”が存在するように感じます。例えば「目上の人を敬い」とありますが、目上でも敬えない人もいる。私だって安倍晋三首相はまったく敬えませんでした。先日、バスの席をめぐって高齢男性と子どもの母親が言い合いになった動画がネットで話題を呼びましたね。あの高齢男性も尊敬できないと感じた人は多いと思いますよ。