不顕性誤嚥の原因はのどの筋力の衰えによる嚥下機能の低下だけではなく、ほかにも重要な原因があると大谷医師は指摘する。

「小さな脳梗塞と呼ばれる『ラクナ梗塞』です。高齢者によくみられる症状で、細い血管が詰まる病気。軽度なものは、命を脅かすものではありませんが、嚥下機能に重要な体内物質を減少させます。ラクナ梗塞の原因は動脈硬化。顕性誤嚥に加え、不顕性誤嚥もしっかりと意識してほしいので、生活習慣病の予防にも注意を払ってほしいです」

 誤嚥を引き起こす主な原因が嚥下機能の衰え。のど周りの筋力が低下すれば、誤嚥性肺炎の可能性は高まり、食事をすることもままならなくなる。

 冒頭の五島歯科医師は「一般的な食事をしっかりとることができれば、雑菌も一緒に除去してくれます」と話す。病気を予防して、この先の人生、長く食事を楽しむためにも、口の中、そしてのどの状態には注意を払っておきたい。

 東京医科歯科大学大学院高齢者歯科学分野の戸原玄准教授は、「年齢とともに筋力は低下するが、日常的に口を動かしていれば、ガクッと落ちることはない」と前置きし、「注意するとすれば」として、次のように話す。

「一人暮らしなどで、著しく会話をする機会が少なかったり、食事内容が炭水化物ばかりで筋力をつけるために大切なタンパク質を摂取していなかったりすると、嚥下機能はどんどん落ちていきます」

 訪問診療で高齢者の嚥下障害を診ることが多い戸原准教授だが、嚥下機能が衰えているのは70代から80代が圧倒的に多く、女性に比べて男性が、筋肉が大きい分、衰えるスピードも速いといった性差も見られるようだ。(本誌・秦正理)

■誤嚥性肺炎予防のために心がけたい4つの習慣
【1】1日4回の歯磨き
 起床後、3食後、就寝前の5回のうち、4回は歯を磨いて口腔内の雑菌を減らす。起床後と就寝前が特に大事。
【2】ながら食事をやめる
 テレビを見ながらなどの“ながら食事”は食べること、かむことに集中できず、誤嚥を引き起こしやすい。
【3】食後90分は横にならない
 食後すぐに横になると、胃や食道の内容物の逆流が起きやすい。
【4】空嚥下を心がける
 誤嚥を引き起こさないために、唾液をごくりとのみ込む空嚥下を食事前に数回練習する。

週刊朝日  2017年12月1日号より。医師の所属は当時。

暮らしとモノ班 for promotion
「一粒万倍日」と「天赦日」が重なる最強開運日にお財布を新調しよう!収納力重視派にオススメの長財布46選