落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「花見」。
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お花見時分の上野公園。ふらふら散歩しながら、花見の場所取りをしている(させられている)人たちを眺めるのが好き。
休日よりも平日がうれしい。陽が傾くとまだまだ肌寒いウィークデーの夕刻に、自分の属するグループの花見のために、独り(ないしは数人)ブルーシートの上でたたずんでいる姿は、なんていとおしいのでしょう。もしそのヒトコマを収めた写真集があれば、絶対手にとって立ち読みしちゃう。買いませんけどね。うん、買うほどではないな……。
ブルーシートの真ん中でズーッとパソコンに向かってるスーツ姿のサラリーマン。液晶に舞い降る花びらを煩わしそうに払いのけ、しばらく頭上の桜を眺めては、思い出したようにまたパソコンに向かう。「ちょっと休んだら~」と桜が誘惑しているようね。
寝袋に入ってシートに横たわってる人。この『物体』を中心にシートの四隅が風に煽られ踊っている。時折、くるんと『生春巻』状態。完全に『生ける文鎮』だ。まくれた箇所には自ら転がり直しにいく。器用な文鎮。
つまみも食べずに延々とストロングゼロを飲み続けている男子学生2人。大丈夫か? 空きっ腹にアルコール9%はホントに危険。本番前のウォーミングアップとしては見てるこちらが心配になる。傍らに空き缶が3本ずつ。公園一周して戻ったら2本増えてた。
津軽三味線サークルの集まりだろうか。もて余した時間に三味線の稽古を始めた20代後半女子3人。なかなか達者。だんだん周りに私のような『観客』が増えてきた。3人もその気になってじょんがら節。弾き終えて万雷の拍手。いいもの聴かせてもらいました。女子たちはちょっと恥ずかしげに三味線を片付ける。向こうのほうからギターの弾き語り兄ちゃんが羨ましそうに指をくわえてこちらを見ていた。世の中は実に厳しい。