新入社員らしい男子2人。なにやら相談を始めたかと思うと17時くらいから紙皿、紙コップ、割り箸やらを並べている。20人分もあるかな。まだ料理も酒も何も届いていないのに、器だけは支度が整った。しかし神様は悪戯好きだ。急な突風が吹いた途端に、みな彼方へ飛んでいった。「あちゃー!」と言いながら拾い集める2人。

 私のほうにも紙コップが転がってきた。「どうぞ」と渡すと「サーセンっ!」と言って受け取りまた元の場所に据える。風。飛ぶ。拾う。風。飛ぶ。拾う。飛ぶ。飛ぶ。風。風。「並べるの、ちょっと早かったかもな……」。あ、諦めた。これを世間では『学習』と言う。

 私も『場所取り』してみたくなってきた。花見の予定はないが、畳半畳ほどのすき間に新聞紙を広げて、体育座りをしてみると見える世界がまるで違う。目の前を行き交うヒザヒザヒザヒザ……。やたらと目まぐるしい。でも左右と向こう正面には同じ目線の高さで陣取る同志が居並んでいる。話しかけはしないがなんだかうれしい。顔を上げると暗くなりつつある春の空を覆い隠すような満開の桜。皆さん、集合時間までお互いに頑張りましょう!

 気がつくと散歩中の犬がこちらをジーッと見つめている。おい……あっち行けよ! 見世物じゃねーぞっ!!

週刊朝日  2019年4月5日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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