5年ぶりの日本開催となったフィギュアスケート世界選手権。羽生結弦はショートプログラム(SP)3位発進だったものの、フリースケーティングは迫真の演技でファンの声援に応えた。五輪メダリストの重圧、けが、ライバルの躍進……。最終順位は2位だったが、悩み苦しんだ等身大の姿に、多くの人が感動したはずだ。羽生劇場の6日間を振り返る。
【写真】プーさんがリンクに投げ込まれても浮かない表情だった羽生結弦
* * *
羽生のフリースケーティング(FS)は最終組で22番目の滑走。その後には、SPで首位だったネーサン・チェン(米)と2位のジェーソン・ブラウン(米)が控えていた。
「ここで、ジャンプの完成度をしっかりしたものにして、最高の出来栄え点をとれるような演技をすれば、後から滑る人にはかなりのプレッシャーがかかります。それをやってのけるというのが勝利への近道です」
と世界選手権銅メダリストで解説者の佐野稔さんは事前の取材に対し、羽生逆転への期待を込めた。
懸念された最初の4回転ループ。着氷すると、はちきれんばかりの歓声が上がった。3点以上の加点。それでも見守るように演技をみつめていた観客だが、4回転トーループ-トリプルアクセルのジャンプシークエンスを披露したあたりから会場が沸きだし、声援に応えるように羽生は次々と技を決めていく。最後のジャンプを成功させると、コーチが大きく片手をあげた。
「ただいま」
演技後、総立ちの観客に羽生は語りかけた。首位チェンを抜くことはできなかったが、圧巻のFSだった。
振り返れば厳しい道のりだった。昨年11月のグランプリ(GP)シリーズロシア杯の公式練習中に4回転ループで転倒し、右足首を負傷。以来、実戦からは遠ざかっていた。
その間、ライバルらが躍進。チェンは1月の全米選手権のFSで3種類4本の4回転ジャンプを成功させた。国内大会のため参考記録ながら、今季の世界最高得点をたたき出していた。
そんな中で開催された世界選手権。日本開催とあって、注目度は五輪並み。周囲の期待がいやが上にもプレッシャーとなったのは想像に難くない。実際、大会中にそれが垣間見える瞬間もあった。そして、不安を払拭しようともがいていた。
「この人も人間なんだな」「SPのミスは自分自身に怒っていた。人間味がある」「結果がどうであれ、リンクに立ってくれてありがとう」
今大会は、そんな声であふれていた。人びとを惹きつけたのは等身大の青年の姿。羽生が残した感動をドキュメントからひろっていこう。