サウンドプロセッサが音を電気信号に変換し、インプラントに送信する。蝸牛に挿入した電極により聴神経から脳に信号を伝えることで音として認識する(イラスト/今崎和広)
サウンドプロセッサが音を電気信号に変換し、インプラントに送信する。蝸牛に挿入した電極により聴神経から脳に信号を伝えることで音として認識する(イラスト/今崎和広)
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 難聴の治療法には、補聴器の装用だけでなく、人工内耳を植え込む手術もある。2017年に成人の適応基準が拡大され、対象となる難聴の程度が広がった。技術の進歩により、性能が向上している。

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 人工内耳は、音を電気信号に変換して聴神経を刺激し、情報を脳に伝えることで聞こえるようにする装置だ。側頭部につける体外装置(サウンドプロセッサ)と、手術により体内に植え込む装置(インプラント)などで構成される。

 人工内耳のしくみは、まずサウンドプロセッサが音声情報を解析して電気信号に変換し、皮下に植え込まれたインプラントに電磁波として送信する。その情報が再度、電気信号に変換され、蝸牛に挿入された電極から聴神経を介して脳に伝わり、音として認識される。

 人工内耳は、難聴の中でも内耳や聴神経などの障害が原因となっている感音難聴が対象。以前は、成人では両耳の聴力が90デジベル以上の「重度難聴」が対象だったが、2017年から両耳70デジベル以上90‌デジベル未満の「高度難聴」で、補聴器をつけた状態で言葉を聞き分けられる程度(最高語音明瞭度)が50%以下の人にも対象が拡大された。より早い段階から、人工内耳により聞こえを改善できる可能性が広がっている。名古屋大学病院耳鼻咽喉科教授の曾根三千彦医師は、こう話す。

「加齢性難聴だけで、高度・重度難聴になることはあまりありません。例えば、高齢になれば誰もが足腰が衰えて歩きにくくなりますが、寝たきりになるには加齢だけでなく、骨折など何か別の要因が加わることが考えられます。同じように、人工内耳が必要なほど重い難聴になるには、加齢性難聴プラスαの要因が加わることが考えられます」

 プラスαの要因について、東京大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科科長で教授の山岨達也医師は、こう話す。

「加齢性難聴を悪化させる要因として、遺伝的な要因のほか、騒音曝露(騒がしい環境に長くいるような職業についていた人など)、喫煙歴や動脈硬化、糖尿病や高血圧などの生活習慣病が挙げられます。『人は血管から老いる』といわれ、血管の老化や障害は難聴にも悪影響を及ぼすことが考えられます」

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聞こえに慣らす時間が必要