人工内耳の手術(人工内耳植込術)は全身麻酔でおこなうため、入院が必要となる。手術前に、聴力検査や補聴器を装用した状態での聞こえの検査、内耳や蝸牛の状態をCTやMRIでみる画像検査、全身麻酔での手術が可能かどうかを調べる心電図や血液検査など、全身状態の検査をおこなう。

■人工内耳の聞こえに慣らす期間が必要

 手術では、耳の後ろの部分を5~6センチほど切開し、側頭骨を薄く削ってインプラントを固定し、蝸牛に電極を挿入する。手術時間は1時間30分程度で、手術後約1週間で退院となる。退院後1週間~10日前後に人工内耳のスイッチを入れ、言語聴覚士がその人の聴力に合わせて電気刺激のレベルを調整する(マッピング)。

 人工内耳を入れることの最大のメリットは、聞こえがよくなることだ。ただし、人工内耳は音を電気信号に変換して脳に伝えるため、最初は自然な聞こえ方とは異なり、機械的な音として聞こえることがある。その聞こえに違和感や不快感をもつ人もいるという。そのため、補聴器と同様、人工内耳の聞こえに慣れるためのトレーニング期間が必要となるが、つけ続けるうちに慣れ、違和感なく聞こえるようになっていく。

 また、人工内耳は手術が必要な治療法のため、「手術をしてまで聞こえるようにならなくても」と躊躇する人もいる。ただし、聞こえていなかった期間が短いほうが、聞こえが改善する度合いが高いとされている。医師から手術を勧められてから手術を予定するまでに「半年ぐらいかけるのが目安」と曾根医師は言う。

「まずは、人工内耳というものを理解してもらうところから始めます。すべての人に必要な手術ではないので、自らの意思で『聞こえるようになりたい』と望む人に対して手術をします。前向きに手術を望む人であれば、私は年齢に上限を設けていません。全身状態がよく手術が可能な人であれば、90歳でもすることはあります」(曾根医師)

■近年では両耳装用も増えつつある

 人工内耳の手術は現在、年間約1200件おこなわれている。1歳以上の乳児から高齢者まで受けられる比較的安全な手術だ。ただし、頻度は低いが合併症のリスクはある。人工内耳の手術に伴う合併症には、顔面神経麻痺、味覚障害、感染などがある。

次のページ
性能は飛躍的に進歩