

感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説する。
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酸化と酸味は字的に似ている。しかし、両者はまったく異なる概念だ。塩(えん)と塩(しお)がまったく異なるように。
化学の漢字は誠にわかりにくい。酸化は酸素を加えて(oxidation)電子を放出することだ。これに対して、酸味は水素イオンの移動によって、pHが下がり、「酸性」になり「酸っぱく」(acid, acidity)なることをいう。前者は酸化還元反応の一つで、後者は酸塩基反応を表現している。同じ漢字を使っているからごちゃごちゃになるのだ。
■酸化はワインを劣化させるが、酸っぱくなるわけではない
厳密には酸化に酸素は必須ではない。しかし、そこまで説明するとややこしくなりだし、ワインを語る場合は「酸化」は基本的に酸素が関与しているので、ここでは割愛する。
要するに何が言いたいかというと、酸化ではワインは酸っぱくならないのだ。酸化はワインを劣化させる。しかし、酸化のためにワインが「酸っぱくなる」わけではない。酸素がワインに加わった結果、起きる化学反応なだけだ。そして、そこには微生物はまったく介在していない。一方、アルコールは酢酸菌のような微生物の作用で酢酸に変化する。ワインが酸っぱくなってしまうのはそのためだ(酸敗)。
酸敗は腐敗の一種といえる。人間にとって都合の悪い微生物による化学反応を「腐敗」というのだった。もちろん、ワインビネガーのようにわざとブドウを酢にする場合は別で、この場合は「発酵」と呼ぶ。同じ現象でも人間様の役に立つか否かが、ポイントなのだった。