米国の文化人類学者マーガレット・ミードが「人類は太古の昔から、帰りが遅いと心配してくれる人を必要としている」と、結婚には夫婦の同居が不可欠であると説いている。
■畑仕事の別居が離婚駆け引きに
だが30年と長い結婚生活の間に、同居への意識が変化することもある。それが熟年離婚の危機を招きかねない。
小泉達雄さん(仮名・64歳)は、定年後、東京近郊にある妻の親戚の土地に立つ小さな家に寝泊まりをし、畑仕事に充実感を覚えていた。
「子供たちが家を出て独立してから、妻が母親を田舎から呼び寄せて、3人で暮らし、私がたまに週末に帰る生活。互いに干渉しない関係が続いてきたはずなのに、妻から離婚の申し出の書類が届きました」
妻の弁護士から離婚の理由を聴いても、原因がわからなかった。
「子育てのサポートがないとか、嫁姑問題の不満が爆発したということが離婚の原因だそうです。そこで弁護士を通じて謝罪を申し出ましたが、妻は聞き入れてくれません。しかもマンションと預金の8割をよこせと要求してきたんです」
小泉さんによると、畑仕事のために自宅を離れて暮らすのを“利用”し、「夫と同居していない」ことを理由に、離婚を進めようとしていた節があるという。
マンションという資産を失うと、畑仕事に専念したとしても、土地を購入する場面に遭遇し、そこで預貯金を使い果たすことも想定される。
「『貧困老人』を回避するには、妻と同居すること。そのためなら畑仕事もやめようと決めました」
畑仕事生活に見切りをつけ、完全同居の形を取り、調停を不成立に終わらせた。だが妻との間には冷たい風が吹き、家庭内別居が続いている。
■姑の陰謀に翻弄 妻には子供…
「人間の一生のあらゆる行動のうちで、結婚は他人に関係することの最も少なきものである。だがそれはまた、あらゆる行動の中で他人に干渉されることの最も多きものである」という17世紀イギリスの法律家ジョン・セルデンの言葉通りの結婚生活を送ることになった男性がいる。