ある日、Aさん(70代女性)は、心配そうな表情をした2人の娘さんに連れ添われ受診されました。Aさんは、だんなさんの自営業を手伝いながら子ども3人を育て上げたお母さんです。子どもはみんな結婚して独立し、だんなさんと悠々自適な生活を送っていましたが、数年前にだんなさんが他界。子どもたちに心配されながらも実家で一人暮らしを続けていました。
話をうかがうと、Aさんは「最近ね、Bちゃん(知人の孫)くらいの子が家の中を走り回ったりするのよ。おいでって言ってもどこかに行っちゃうんだけどね」とお話しになります。お一人で生活されているとのことですが、洋服や髪もきれいにされ、しっかりと話される様子からはAさんが現実と異なることを話されているようには感じられませんでした。
続いてご家族に話をうかがうと、「普段からそれぞれ私たちがお母さんに電話をかけて様子をうかがうようにしていたんです。年明けくらいからさっきみたいなことを言うようになって。心配になって実家に行ってみても子どもはいないんです。それでも、何回言っても同じことしか言わなくて。家のこともちゃんとしているみたいなんですけど。先生、何かの病気でしょうか」ということでした。
とても不思議な感じがしますが、実はその後の診察と検査の結果、Aさんは認知症の一つである “レビー小体型認知症”であることがわかりました。「でも待てよ。認知症って言ってもAさんはしっかりしてたんでしょ?」と思われた方もいらっしゃると思います。重要なご指摘です。
一般的に認知症というと“もの忘れ”と思われがちですが、実はレビー小体型認知症では、初期段階においてもの忘れが目立たない場合もあります。一方で、この認知症では存在していないものが見える“幻視”が起こることが知られています。特に、この認知症で見られる幻視の特徴としては、色鮮やかでハッキリとしたものが多いと言われているため、実際に見えたものについて具体的に聞いてみると案外すんなりと答えが返ってくることがあります。例えば「何歳くらい?」、「どんな服を着ていたの?」という問いに、「そうねぇ、幼稚園くらいで赤いフリフリの可愛らしいお洋服を着た女の子よ。いつも笑顔なの」と。