11年には大規模な疫学調査によって、発達障害の遺伝性は約37%とされた。残る約63%は環境要因となる。
仮に、自閉症を含めた発達障害が遺伝によるものだとすると、発達障害の児童生徒が急増していることの説明がつかない。原因遺伝子を持つ親が、最近になって急に増えることは考えにくいからだ。
そこで原因として、ここ数年指摘されているのが、環境中に蔓延(まんえん)する化学物質による影響だ。中でも農薬の危険性が焦点となっている。農薬で子どもの脳が侵される……。こんな恐ろしいことを指摘する報告が相次いでいるのだ。
日本ではほとんど知られていないが、海外では農薬による子どもへの健康被害を危惧する学術団体の見解が増えている。
例えば、米国小児科学会(AAP)は「農薬曝露は小児がんのリスクを上げ、脳の発達に悪影響を及ぼし、健康障害を起こす」とする勧告を12年に発表している。
世界保健機関(WHO)も同年に、「内分泌攪乱化学物質の科学の現状2012」と題する刊行物を公表。内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)や大気汚染、それに農薬が、子どもの健康や脳の発達に悪影響を及ぼすことを指摘している。
世界の130の国と地域の学術団体が参加する国際産婦人科連合(FIGO)は、15年にこう警告した。
「農薬、大気汚染、環境ホルモンなど有害な環境化学物資の曝露が流産、死産、胎児の発達異常、がんや、自閉症などの発達障害を増加させている」
いずれも、農薬の子どもの脳への影響を認めた上での提言だ。
「日本でも、子どもの発達障害と農薬の関係を示唆する興味深いデータがあります」
そう言って黒田氏が示すのが、農地1平方キロメートル当たり何トンの農薬が使われているかを、OECD加盟国で比較したデータだ。日本と韓国が抜きんでている。湿潤で虫や病気が発生しやすい日本では、農薬が大量に使われている。
「自閉症、広汎性発達障害の国別の有病率」と見比べてみると、数値が高いほうから4番目までの順位が一致。日本と韓国が抜きんでているところも同じだ。