林:新作映画「半世界」(全国公開中)を拝見しましたが、吾郎さん、いい味出してましたよ。「山の中の炭焼き窯で炭をつくる39歳の男性」という役でしたけど、最初に見たときは、吾郎さんだとわからなかった。ニット帽とひげだし、「えっ、どこにいるの?」という感じでした。

稲垣:僕が持たれているパブリックイメージは、なるべく抑えて演じるよう心がけたんです。僕は東京出身だし、中学生ぐらいからこの業界にいるし、父の仕事を受け継ぐという感覚や、小さいころから一緒にいる友達といったものを、あんまり知らないんですよ。僕、幼なじみっていないんです。だから映画の世界は、僕にとってまったく未知の世界でした。

林:地方はやっぱりこういう友情が成り立つんですよ。みんなで一緒に家出したり、一緒にたばこ吸ったり、ちょっと悪いこともして、記憶を共有している兄弟みたいな友達がいるんです。東京育ちの人にはわからないかもしれないけど。

稲垣:僕はそういう感覚が遮断されて、“龍宮城”みたいなところに行っちゃってましたからね(笑)。環境が変わってから、いちばん最初に個人としてやらせていただく映画だったので、俳優としてチャンスだと思って取り組みました。

林:それにしても、炭を焼くってあんな重労働だとは思わなかった。

稲垣:三重の伊勢志摩のほうでのロケだったんですけど、実際に炭焼き小屋があって、そこを使わせてもらったんです。僕が演じる炭焼き職人にはモデルになった実在の方がいて、その方にアドバイザーとして入っていただきました。その職人さんは、木を伐採してトロッコで運んで、窯の中で備長炭をつくるまで、全部一人でやられています。本当にすごいと思いました。

林:吾郎さんの役は炭焼きのお父さんの後を継ぐことにいろんな葛藤があって、結局受け継いだんだけど、受け継いだものの大きさにちょっと戸惑っている感じですよね。

稲垣:そうですね。家業を継ぐってどんな気持ちなんでしょうね。「継がなくてもいいよ」ってお父さんに言われて、それでも継ぐことを選んだ。こういう人たちって多いのかなと思いますけど、僕の周りにはいないので、監督にもいろいろ聞いて、イメージしながら演じましたね。

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