患者への共感力が強い医療従事者は、患者の悲しみを自分の悲しみと捉え、バーンアウトしやすいといいます。自身も後悔から、「何度か医者をやめようと思ったことがある」という京都大学医学部特定准教授で皮膚科医の大塚篤司医師が、悲しみと後悔への向き合い方を語ります。
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多くの患者さんが優しい医師にみてもらいたいと願います。しかし、患者さんの気持ちに共感して親身になってくれる医療従事者ほど、バーンアウト(燃え尽き症候群)になりやすいという報告があります。私も何度か医者をやめようと思ったことがあります。それは、悲しみからではなく後悔からです。
伊藤晴子さん(仮名)は笑顔がすてきでとても優しい60代の女性。全身の皮膚が真っ赤になる紅皮症(こうひしょう)の治療のため、近くの個人医院から紹介されてきました。
紅皮症にはいくつか原因があります。アトピー性皮膚炎などの皮疹が悪化して全身に広がったタイプ。薬があわなかったことによる薬疹(やくしん)。皮膚原発のリンパ腫などです。紹介状によると、伊藤さんの紅皮症の原因は乾癬(かんせん)という皮膚の病気が悪化したものだろうと書かれていました。
「後医は名医」という言葉をご存じでしょうか。
後から診た医者は前に診た医者よりも情報量が多く、診断がより正確になるという意味の言葉です。
乾癬が悪化した紅皮症としては何かおかしい。私はどこか診断に違和感を感じていました。教科書を調べ、カンファレンスを繰り返しました。しかし残念ながら、私は“名医”にはなれずにいました。
担当してから1年以上、伊藤さんは入退院を繰り返す生活をしていました。皮膚の状態は徐々に悪化し、浸出液(しんしゅつえき)も増え、体の大部分がガーゼで覆われていました。
きっと体じゅうが痛かったと思います。ガーゼ交換で体を動かすたびに伊藤さんは顔をゆがめました。それでも処置の間は楽しいおしゃべりを続け、私たちは楽しい時間を共有できました。
「先生ありがとう」
優しい言葉をかけてくれる患者さんでした。