「今のルールで抑制を続けると、老齢基礎年金が長期間にわたって、しかも大幅な支給減になり心配です」
公的年金には5年に1回、100年後まで見据えて年金財政を点検する「財政検証」という制度がある。前回14年の財政検証によると、支給抑制策は厚生年金は20年度ごろに終了するが、国民年金(老齢基礎年金)は43年度まで続くとの見通しが出されている(試算8ケースのうち中ほどの「経済E、人口中位」)。
「給付水準の低下度合いが全然違うんです。厚生年金が3~5%程度の緩やかなものなのに、基礎年金のそれは14年度と比べると43年度は29%もの低下になってしまう」
まさに「2割減、3割減は当たり前」の世界だが、中嶋主任研究員によると、その結果、現役時代に収入の少なかった人により大きな年金収入減の影響が出そうだとする。
14年財政検証での試算数字を、中嶋主任研究員が賃金上昇率をもとに14年度の価値に換算。年収が平均水準の世帯の年金額の削減幅が19%であるのに対して、年収が2倍の世帯のそれは15%減と削減幅が少なくなり、逆に平均の半分の世帯のそれは23%減と削減幅が広がる。
「収入が低いほど削減がきつくなる逆進性が出てしまうんです。年収の低い世帯ほど厚生年金の金額は少なくなります。その結果、年金全体に占める基礎年金の割合が高くなるために起きることです」
同じ抑制策でも人によって影響が違うので要注意だ。自分の年収レベルを再確認しておくといい。
中嶋主任研究員によると、現行ルールではもう一つ注意点があるという。
「キャリーオーバーにも気を付けたほうがいい。なぜなら、物価や賃金が高く伸びた時に、たまっていた『ツケ』を支払わされるからです。そこで本来の抑制分とダブルで引かれてしまうと、抑制幅が大きくなる分、生活がきつくなります」
それを防ぐには、年金額を下げない「名目下限措置ルール」をやめてマイナス改定を行い、本来の抑制分を毎年、きちんと清算していけばいい。専門家の間では常識化している議論というが、政治の場にいくと話は進まなくなる。
最悪は、そうした制度改正が進まないまま経済が停滞し、「ツケ」がどんどんたまっていくシナリオだ。
「そうなれば下手をすると、マクロ経済スライドでは年金財政をバランスさせることができず、基礎年金がさらに大幅カットされる事態すら考えられます」(中嶋主任研究員)
そのような事態が現実にならないことを祈るばかりだ。(本誌・首藤由之)
※週刊朝日 2019年2月8日号