以前はマイナスになった分は「不問」に付されていたのだが、18年度から次年度以降にキャリーオーバーされ、抑制比率を引いてなお余裕があればその分をプラスして抑制することになった。18年度、さっそく「0.3%」がキャリーオーバーとなり、19年度でその分が合わせて抑制された。

 つまり19年度の年金額は、抑制比率分とキャリーオーバー分がダブルで適用されるのだ。

 物価が1%上がっていて、本来なら年金は0.6%上がるはずなのに0.1%しか上がらないのだが、「年金生活者をいじめるのか」などと言ってはいけない。これまで年金受給者は年金財政悪化による「痛み」を感じてこなかったからだ。

 現役の年金保険料は17年度まで14年連続で引き上げられ、支給開始年齢は65歳への引き上げがスケジュールどおりに進んでいる。支給抑制策のみが「手つかず」だったのだ。

 そもそも、1990年代後半にデフレが本格化して物価が下がったさいに、高齢者に配慮して年金額を引き下げなかったことが「ねじれ」の始まりだった。その後、04年に支給抑制策はできたものの、長いデフレなどで90年代のマイナス分の解消に手間取り、ようやく15年度に初めて抑制策発動となった。今回は2度目の発動で、まさに支給抑制は緒についたばかりなのだ。

 今年10月に消費税率が引き上げられることから、すでに20年度も抑制策の発動が確実視されている。ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫主任研究員によると、

「消費増税の影響で、20年度に加えて21年度もマクロ経済スライドが発動されるとみています。当研究所は20年度1.0%、21年度1.7%の物価上昇を見込んでいます。スライド調整率は19年度と同じ0.2%と踏んでいるので、物価だけで見ると、20年度0.8%、21年度1.5%のプラス改定になりそうです」

 名目の年金額は上がっていくが、実質は目減りしているというのが支給抑制策のポイントだ。目減り分は一見、目立たないが、長期に続くと大きく影響してくる。中嶋主任研究員が言う。

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