天皇陛下の執刀医として知られる天野篤さん。作家・林真理子さんとの対談では、現在の医療を取り巻くさまざまな問題に対する危惧を明かしました。
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林:「ドクターX」(テレビドラマ)の男性版みたいに、渡り歩いていくというのもちょっと憧れてます?
天野:「この部分だったら絶対誰にも負けないぞ」といったものを自分で目指してきています。それはつまり、ゴルフで言うと、15バーディーなんですよ。15バーディー出す選手って年に一人ぐらいはいますけど、それをコンスタントに出し続ける選手っていないですよね。僕はそういうのを目指してるんです。自分でも、いかに自分の手術のレベルが高いかというのがわかります。
林:天職でいらっしゃるんですね。
天野:自分が今やっていることにうまく邂逅したなと思いますね。
林:前に木村拓哉さんが外科医をやったドラマ(「A LIFE~愛しき人~」2017年)で、外科手術の“糸結び”をひたすら練習し続けるシーンがありましたね。
天野:あのドラマは、僕が監修しました。木村さんを実際に手術室に入れて見せましたよ。僕や何人かの教授の逸話みたいなものも、ドラマの中に入れたんです。最後のところで、「一途一心に自分は頑張る」みたいな話が出てくるんですけど、あれは僕の座右の銘なんですよ。
林:ドラマを見た人は、こんなことまでやるのかと思ったでしょうね。
天野:僕は修業時代に、心臓弁膜症の父を自分の判断ミスで失いました。それが心臓外科を志す動機になったんです。僕が父で経験したように、一つの気のゆるみはそのまま寿命の短縮につながります。そういった経験で得た外科医としてのスタイルは、果たし合いで「居合一発」なんですよ。自分が刀を鞘におさめたときに、勝負が決まってる。手術も、自分が刀をおさめた瞬間に患者さんのそのあとの寿命ができあがっているという、それが理想なんですよ。
林:ほぉー。先生の新刊を読んだら、心臓が悪い人って、加齢、肥満、飲酒とか、全部私に当てはまりそうで、ど、どうしようと思って(笑)。
天野:いつでもご連絡いただければ検査しますから(笑)。
林:先生の本に、「男性の健康寿命は72歳」って書いてありましたけど、それが私には腑に落ちないんです。72歳といったらまだ若いじゃないですか。