川村さんの提唱するひざ裏伸ばし体操の一つをする高齢者ら。手をついて壁を押しながら、ひざ裏の筋肉を伸ばす簡単なストレッチだ
川村さんの提唱するひざ裏伸ばし体操の一つをする高齢者ら。手をついて壁を押しながら、ひざ裏の筋肉を伸ばす簡単なストレッチだ
壁ドン(イラスト・藤井アキヒト)
壁ドン(イラスト・藤井アキヒト)
壁ピタドローイン(イラスト・藤井アキヒト)
壁ピタドローイン(イラスト・藤井アキヒト)
ワン・ツー・スリー体操(イラスト・藤井アキヒト)
ワン・ツー・スリー体操(イラスト・藤井アキヒト)

 続ければ、寝たきり予備軍の高齢者が体を動かせるようになり、ブリッジや開脚もできるようになる。そんな“奇跡”を起こす体操があるという。ポイントはひざ裏を伸ばすこと。体操を考案した医師、川村明さんにそのメカニズムと体操のコツを聞いた。

【イラスト】ひざ裏伸ばし体操のやり方はこちら

 健康寿命の鍵はひざの裏にあった──。山口県宇部市のかわむらクリニック院長の川村明さんは、ひざの裏の筋肉を伸ばして鍛える体操(ストレッチ)を提唱し、5年間で2千人以上の高齢者を元気にしてきた。

 体操を続けるうちに、車いす生活だった人が立てるようになったり、つえがいらなくなったり、寝たきり予備軍の人が歩けるようになったりするケースが続出。そのメソッドは、著書『5秒ひざ裏のばしですべて解決』(主婦の友社)に詳しく紹介されている。

「多くの医師は高齢者に対し、ひざや腰の痛みが悪化しないよう安静を指示し、転倒リスクを避けるために外出を控えるように助言します。しかし、体を動かさない生活を続けていると、全身の筋肉が固まり、結果的に動けなくなってしまうのです。ぜひ、無理のない範囲でひざ裏伸ばし体操を試してみてほしいです」

 川村さんによると、寝たきり予備軍の高齢者はみな似たような体形をしているという。それは、ひざが曲がり、骨盤が後ろに傾き、背中が曲がり、首や肩が前に出ているというもの。

「ひざ裏の筋肉が衰え、凝り固まっているから、この姿勢になるのです。重力に逆らい、体を伸ばして立つ力を伸展力といいますが、この力はひざ裏を起点に、背筋、腹筋、腰の筋肉、太ももの筋肉が連動して、起こります。つまり、全身を動かしたいならば、ひざ裏を伸ばし鍛えることが重要なのです」

 川村さんが考案したひざ裏伸ばし体操は、医師としての知見がつまっているだけでなく、自身の経験にも基づいている。川村さんは徳島大学医学部を卒業後、外科医として病院に勤務し、36歳で開業するも、それまでの多忙な生活が原因で椎間板ヘルニアを発症。手術は成功したものの、痛みと不安から心身に不調をきたすように。うつ状態になり、自殺を考えたこともあったほどだ。そんなとき、55歳で出合ったヨガで、体調が劇的に好転する。

「最初はまともに前屈さえできなかったのですが、ヨガを始めてたった半年で、体が動くようになりました。その理由を調べ、研究を重ねてみると、全身の筋肉を動かすことが重要だとわかりました。その筋肉の起点が“ひざ裏”にあることを突き止めたのです」

 川村さんは、高齢の患者たちに、ひざ裏を伸ばすストレッチを指導。すると、早い人はたった1日で、体の動きが改善したという。また、患者の経過を観察するうちに、ひざ裏伸ばし体操にはさまざまな効果があることがわかってきた。

 まずは姿勢。続けることでおのずと姿勢がよくなり、体幹が鍛えられる。

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