作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は氏が飲食店で一緒になった男たちの話を聞いて、切れそうになった経験を書く。
* * *
寿司屋で隣のサラリーマン男性3人組が酔っ払っている。店中に響く大きな声で話してる。悪い予感しか、しない。会社の人間関係の話とか(悪口)、誰々の息子がどこの大学に入ったとか(噂話)、脈絡なく挟み込まれるエロ話とか(下品)。美味しいもの食べているときの、隣人の下世話を耳にする時間ほど、日本社会とは、人間とは、男とは、人生とは……などということを適当に考えるのに相応しいものはない。
しかし男たちが「大学が、寄付金多い親の子どもを入れたいのは仕方ない」と話し始めたときは、背筋がピキと鳴るような気がした。この流れで「医学部の女性差別は致し方ない」「女医が増えたら困る」とか言いだしたら、私、どうする? 鯵ほうりだして切れちゃうかも。でも、寿司は美味しい。鯵は投げない。しかし言わずにはいられない。「もしもし? その発言は聞き逃せませんね。なぜならね……」。急に寿司屋が明るく、きーんと静かになり、私の心は忙しくなる。差別発言を大声で私の隣でされたら、絶対に何かしたい。でも、酔っ払いに真顔で怒るなんて……と、たしなめられるのは経験上、間違いなく私のほうである。しかし!!