女優の趣里さんは10代半ばで、一度、人生のどん底に突き落とされた。
「4歳からクラシックバレエを始めて、6歳で初舞台を踏んでからというもの、頭の中はバレエのことでいっぱいでした。学校でつらいことがあったときも、バレエを踊れば忘れられました。目上の方を尊敬する気持ち、周囲への感謝、お友達との友情など、生きていく上で大事なことは、すべてバレエから教わった気がしています。でも、イギリスに留学中に大きなケガをして、帰国してリハビリに励んでいたのですが、お医者様から『もう前のようには踊れないよ』と診断されたのです。それでバレエで生きていくことを断念せざるを得なくなってしまいました。そのときは人生に絶望して、『目標を失って、この先どうやって生きていこう?』というところまで追いつめられました」
そんな趣里さんを救ったのが、芝居だった。軽い気持ちで参加した映画監督の故・塩屋俊さん主宰の「アクターズクリニック」。そこでは、演技のメソッドを学ぶのではなく、自分の内側に眠っている感情を掘り起こす作業に没頭した。
「レッスンを通して、演技って面白い、違う人間になるって面白いって、感じるようになったのですが、なかなか女優として生きていく覚悟までは生まれませんでした。でも塩屋さんが、『ずっと女優を続けなさい。大丈夫だから』と言ってくださったんです。その言葉を心の支えにして、舞台やドラマのオーディションにも挑戦できるようになりました」