ここでのワインは果実酒、つまり果物から造ったアルコール飲料といった意味だ。前述のように、日本には厳密なワインの定義がないので、こういうアクロバティックなやり方も「あり」ということになってしまう。
ちなみに、ぼくの郷里は島根県だが、島根県最大のワイン製造量を誇る島根ワイナリーでは「いちごワイン」というのを造っている。これは白ワインにいちごを漬け込んだものだ。
フランス目線の正式なワインの定義から考えると、この「いちごワイン」はワインというよりも、むしろ醸造酒原料の混成酒(フレーヴァード・ワイン)というべきであろう。混成酒とは、醸造酒や蒸留酒になにか混ぜ物をしたお酒のことで、焼酎に梅の実を漬け込んで梅酒を造るようなものだ。「いちごワイン」は醸造酒から造った混成酒で、梅酒は蒸留酒(焼酎)から造った混成酒となる。
「何の話をしているのか」がぼんやりしていては、わけがわからなくなる。ここでは、「醸造酒とは何か」「蒸留酒とは何か」「混成酒とは何か」をおさえおこう。
・醸造酒:アルコール発酵で造り蒸留しない酒
・蒸留酒:アルコールを蒸発させてアルコール度数を高めた酒
・混成酒:醸造酒か蒸留酒に混ぜものをしたもの
・酒精強化ワイン:醸造酒であるワインにアルコール度数の高い酒を混ぜてアルコール度数を高めたもの
日本には厳密にはワインの定義というのはないが、本連載の定義として、「ブドウから造る醸造酒」をワインと呼ぶことにしよう。ワインはフランスや日本だけでなく、世界中のいろいろな国で造られている。最近では、中国とかカンボジアといった、従来はワインの産地と認識されていなかった国でもワインを造っている。そして、フランスのみならず、世界のほとんどの国ではワインは「ブドウから造る醸造酒」として認識されている。だから、ぼくらもそれに倣おうというわけだ。
しかし、ここで疑問が湧いてくる。そもそも、どうしてブドウが酒になるのか……。
◯岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著に『もやしもんと感染症屋の気になる菌辞典』など。