人間に「この食べ物を食べ続けろ」「これを飲み続けろ」と強要するのは、人道的に問題がある。しかも、がんが発生するまで何年も行うというのは、かなり無理筋だ。非人道的な研究は、できない。
たばこが体によくないのは、たくさんのデータから「ほぼ」正しい。しかし、これを直接的に証明した人体実験はほとんど存在しない。研究のために「たばこを吸い続けろ」という研究デザインは、人道的に許容できないからだろう。
飲食物と病気の因果関係の問題は、なかなかやっかいだ。
とはいえ、「やっかいだ」「面倒だ」と言っているだけでは少しも先に進めないので、少しヒントを——。
(1)人を対象にしている研究は信頼度が高い(理由はすでに述べた)。
(2)研究対象者はたくさんいたほうがいい。
10人とか20人では「まぐれ」の可能性が高いからだ。サイコロを10回振って、六の目が8回でても、そのサイコロがイカサマだとは限らない。しかし、100回振って六の目が80回でれば、かなりイカサマといえる。たくさんの人が参加している研究のほうが信頼できる可能性は高くなり、「まぐれ」問題を払拭(ふっしょく)できる可能性も高くなる。
(3)比較が大事。
比較をしないと、「前後」関係と「因果」関係の区別ができないからだ。例えば、ワインと健康の問題を扱いたいのなら、ワインを飲んでいる集団と、飲んでいない集団を比較する必要がある。「ワインを飲んだ=病気になった」では不十分だ。ワインを飲んでいるグループでは病気が多く、ワインを飲んでいないグループでは病気が少ない。こちらのほうが信頼度は高い。
(4)比較したときの「差の大きさ」が大だ。
このことは、案外、医者も教えてくれない(知らないから……かな?)。例えば、100人の人がワインを飲んでいて、10人の人がある病気になった。100人の人はワインを飲んでないが、9人の人が病気になった。その差は100人中1人だ。細かい話は飛ばして言うが、要するに1%しか違わない。