バルマン氏が来日したとき、ちょうどタクシーが、乃木坂の私の店の前を通ったんです。バルマン氏に「ここが私の店なんですよ」とお話ししたら、「ちょっと立ち寄らせてもらっていいですか」と。私の店を一通り見た彼はこう言いました。

「私は世の中で一番美しいのは花嫁姿だと思っている。しかし、一年のうちでウェディングドレスは2、3度しか手がけることがない。でもあなたは毎日、これだけに専念できる。なんと幸せな人生か!」

 もう、体の震えが止まりませんでした。和装の婚礼が主流な中、不安な気持ちを抱えて必死でやってきたけれど、もう迷わない。私はこの仕事に生涯をかける! 強い気持ちが固まったのは、この一言でしたね。

――今や結婚式や披露宴の衣装はドレスが中心になり、時代が桂由美に追い付いた。「桂由美デザイン」のドレスを着た花嫁は70万人を超える。

 今も演劇的要素のある、ファッションショーの仕事が何より好きです。国や宗教や人種を超えて、ドレスを着てほしい。結婚する人たちの幸せのお手伝いが続けていけたら、望外の喜びですね。

(聞き手/浅野裕見子)

週刊朝日  2018年9月7日号