作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は東京医大前のデモを呼びかけたという。
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東京医大の差別入試問題が発覚した翌日、いてもたってもいられず、東京医大の前でデモを呼びかけた。そのことをきっかけに、3人の当事者と話す機会があった(8月9日時点)。不正があったとされる年に東京医大を受け、不合格になった女性たちだ。
医療界は狭い。声をあげることが、後の自分のキャリアにどう影響するのか。そう考え恐れ沈黙を選ぶ当事者は少なくない。もちろん、私にコンタクトしてくれた女性たちだって同様だ。それでもと連絡をしてくれたのは「これは自分だけの問題じゃない」「未来の職場を改善することにつながるはずだ」「こんな悔しい思いを二度としたくない、他の女性にもさせたくない」という思いからだ。
今回、医療関係者ほど「こんなことは昔からあった」と言いたがることに驚いている。男女比調整しなけりゃ女医が増えるとか、そもそも男女には脳の性差があるから物理を難しくして女性が入れないようにしてきたとか、女性は出産・子育てして職場に迷惑かけるとか。科学的根拠を重んじ、理性を尊ぶべき医者の言うことじゃない。
それでも、「女医が増えると困る」と考える背景に、一人の当事者は「医学部にジェンダー教育が一切ないことも問題だ」と言っていた。ジェンダーが何かを知らず、ピラミッド型の医局の人間関係ばかりをみていたら、そういう考えにもなるだろうと。例えば女性が外科を目指したとして、医局のトップの男性が「うちは休めないよ」「女はいないよ」と言えば、それは察しろという意味だ。そういう中で男は自分の手下になるような男を選び、性差別構造は再生産されていく。
一緒に話を聞いていた弁護士が「相撲協会と同じだね」と言った。女を排除し、上にものを言えず、内側のローカルルールが世間で通用しないことを知らず特権的な地位を死守しようとする。ただ相撲協会には関わらずにすむが、医療界は避けて通れない。時代も社会の空気も読めず「女医はいらない」というのがまかり通っているお粗末な組織のありようは、私たちの健康に直結する重大事なんじゃないか。