痔瘻は、歯状線にある肛門小窩(肛門陰窩[いんか])という小さなくぼみから、便に含まれる大腸菌などの雑菌が入り込み、肛門腺が感染を起こす病気だ。下痢をくり返す人に多いといわれる。

 感染部位の炎症が強くなると、膿がたまり肛門周辺が腫れて熱を持ち、強い痛みがあらわれる「肛門周囲膿瘍」になる。肛門周囲膿瘍は腫れた部分を切開して膿を出せば(排膿)、症状はおさまる。しかし多くは再燃し、痔瘻として治療を受けることになる。

 痔瘻の治療は切開開放術が基本になる。肛門の粘膜にある原発口(菌の入り口)と、皮膚側の二次口(出口)、感染した肛門腺(瘻管)、炎症の中心となっている病巣を切り開いて切除する。

 この手術の際に、肛門のまわりにある内括約筋と外括約筋をある程度、傷つけることになる。1本の瘻管が皮膚の浅い所を通っているような治療しやすいケースでは、傷つけるリスクは低い。しかし瘻管が深い所を通っている、複数本ある、途中で枝分かれしているなどの複雑なケースでは、括約筋の損傷部分が多くならざるを得ないことがある。

 このとき、無駄に括約筋を切除しすぎると、術後、肛門の開閉が不十分になり、「便失禁」の合併症を起こす危険性がある。意思に反して便が漏れ出てしまう便失禁が起こると、外出がままならない、人に会うのがゆううつなど、QOLを低下させてしまう。

 そのようなことにならないように、多くの病院でおこなわれているのが、「括約筋機能温存術」だ。瘻管だけをくりぬく「くりぬき法」、瘻管を一部結紮して残す「LIFT」、医療用のゴム輪を排膿した瘻管に通して時間をかけて切除する「シートン法」などがある。括約筋機能温存術では、再発をきたす場合があるのがデメリットだ。

 所沢肛門病院院長の栗原浩幸医師は次のように言う。

「便失禁のリスクをいかにゼロに近づけて術後のQOLを保つか、肛門専門医はそれぞれに研鑽を積んで、ベストと思われる治療法を提供しています。症例数の多い病院ほど複雑なケースにも対応できて、リスクは低いと考えていいでしょう。当院では瘻管切開開放術を中心に、リスクの高い症例には括約筋機能温存術を組み合わせた治療で、合併症はほぼ起きていません」

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