その日、岡田先生はA君という生徒を激しく叱った。A君はいわゆる飯場の子だった。小学校の隣で始まった大規模なマンション開発の現場に飯場が建って、A君はそこから通学しているという噂であった。
岡田先生がA君に尋ねた。
「A、提出物持ってきたか」
「はい、持ってきました」
A君がランドセルと机の中を探し始めた。しかし提出物は出てこない。岡田先生の顔つきが、みるみる険しくなった。A君はすでに二度、提出物を持ってくるのを忘れていたのだ。
「ないのか」
「いえ、今日は本当に持ってきました」
「嘘を言うな」
「本当です。本当に持ってきたんです」
A君はもう一度探したが、提出物は出てこない。岡田先生の「甘ったれんじゃねぇ」が炸裂した。
「家に帰って取ってこい!」
A君は泣きそうになりながら教室を出ていったが、ほどなく手ぶらで戻ってきた。
「やっぱり、今日は持ってきたはずなんです」