「ヤマダ君、やってみろよ」

「僕はいいですよ」

「結構、高かったんだよ」

「じゃあ、ナカジマさんがやればいいじゃないですか」

「いや、私は話のネタに持ってきただけだからさ……」

 結局、ふたりともふりかけなかった。

 強烈なライトを浴びているナカジマさんの光沢を眺めながら、大センセイ、初心な青年のように逡巡していた先輩ハゲの心情を、ちょっぴり愛おしく思った。

 オペラは聴くよりも、出る方がずっと楽しい。

週刊朝日 2018年7月20日号

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