石田衣良さん(撮影/東川哲也)
石田衣良さん(撮影/東川哲也)
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 池袋を舞台にした小説『池袋ウエトゲートパーク』(以下『IWGP』)が刊行されて、今年で20年。2000年に長瀬智也主演でドラマ化され社会現象を起こしたうえ、今も出版が続く人気シリーズだ。この作品で作家デビューをした石田衣良さんに、大ヒット小説の誕生秘話を聞いた。

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 親子の情愛や熱い友情などをちゃんと入れているところが、長く続いている理由だと思うんです。『IWGP』はそのときそのときのニュース性のある話題を盛り込んで書いていますが、そこに昔からある「情」をうまく織り交ぜています。新しいだけ、古いだけではなく、その両方を採り入れたバランスの良さが大事なんですよね。

(第1作執筆当時は)いろんな分野の作品を書いて、新人賞に応募していました。ホラーを書いて、純文学っぽいのを書いて、ファンタジーを書いて……と。書いていなかったのはミステリーだけかな、という状況で「オール讀物推理小説新人賞」の募集があったんで、ミステリーを書いて応募したんです。実は「小説現代新人賞」の締め切りも同じような時期にあったんですね。「オール」の方が締め切りがちょっと遅かったので、そちらにしました。このあたり、運を感じます。

 幸いなことに新人賞を取れたんですけど、「オール讀物」という雑誌は2作目の掲載基準が高いんです。せっかく受賞しても、次に書いた作品が基準をクリアできす2回、3回とはじかれていくうちに自信をなくしたり、方向性が分からなくなり迷ってしまう新人が多いそうです。ラッキーなことに僕は、2作目もスムーズに掲載してもらえました。それで「この人は書けそうだ」となったんでしょうね。集英社や新潮社の編集者が会いに来てくれるようになりました。

『IWGP』のベースになっているのは、アメリカ西海岸のギャングカルチャーです。そういうのって何年か経つと必ず日本に入って来るので、それを日本風にアレンジして書いたんです。

 今でもそうですけど、「オール讀物」はベテラン作家が執筆する雑誌。ですから『IWGP』の新しさが際立っていた。ちょうど編集部も世代交代をしたい、新しい血が欲しいという時期だったようです。タイミングのうえでも、うまくはまったわけです。巡り合わせを感じますね。

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