北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
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数値化できない女たちの痛み(※写真はイメージ)
数値化できない女たちの痛み(※写真はイメージ)

 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は、「ぶつかり男」について。

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 本稿でイラストを描いてくださっている田房永子さんと私は、ずいぶん前から「すれ違いざまに女にだけぶつかる男がいるよね」と嘆いていた。ところが、この経験は、なかなか共感を呼ばなかった。「ぶつかられたことはあるけど、わざとじゃないと思う」と考える女性のほうが圧倒的だし、そもそも「あったかもしれないけど、覚えてない」とも言う。田房さんはつい最近まで、街中で反則タックルされる女は、日本で私と田房さんだけなのではないかと思いかけていたそうだ。

 ところが先日、テレビで、女性をあえて狙いぶつかる男性の存在が報道された。男性とはうまくすれ違うのに、女性にはあえて肩をドンとぶつけていく。たいていがスーツを着た成人男性だという。

 私が出会ったのも、やはりスーツを着た中年男性だった。大きい荷物を持って歩いていた時、前から突進してくるように、私の肩にぶつかってきた。私はよろめき、とっさに「ちょっと待って!」と声をかけた。女性が騒ぐと、大抵の場合逃げると言われるが、その男性は「は?」とにやついた顔で振り向いた。ひるみながら「今、わざとですよね?」と聞くと、「邪魔だから」と堂々と吐き捨てるのだった。

 そんな目にあった日は、やはり落ち込む。もちろん落ち込むこと自体がとても悔しいので、「あの男が生涯にわたりあらゆる不幸をなめることを……祈ります」(昭恵さん風に)と呪詛を吐き忘れようとしてきた。たまたま、私が運が悪かったのだ、と。

 ところが、この「ぶつかり」問題、テレビ報道のおかげで、実はかなり起きていることがわかってきた。つい最近も台湾からの留学生が、何度か被害にあった話をしてくれた。それは日本に来て最も驚いたことの一つだったそうだ。こうなったら、運が悪かったと呪詛吐いてる場合じゃない。キッチリ「加害者」に自分の卑怯さと向き合ってもらいたい。これは明確な性差別なのだ。

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