年金は本来、老後を安心して過ごすためのものなのに、国民の不信感を高めるようなことが続いている。
2007年には第1次安倍政権が失速する契機となった「消えた年金」が大問題になった。約5千万件の記録が“宙に浮いている”ことがわかったが、それから11年間たっても解決のめどは立っていない。保険料をきちんと払ったのに、それに見合う年金をもらえていない人がたくさんいるのだ。
ずさんな管理体制が批判された旧・社会保険庁の代わりに日本年金機構が10年にできたが、信頼回復はできなかった。15年にはサイバー攻撃を受け、約125万件の個人情報が流出。17年には基礎年金に一定額が上乗せされる「振替加算」について、約10万6千人に計約598億円の支給漏れが発覚した。
この支給漏れをきっかけに機構が事務処理ミスについて総点検したところ、再発防止策が不十分でミスが何回も繰り返されていたケースも判明した。
そして今回は約130万人分の過少支給だ。
そもそもの発端は「扶養親族等申告書」という聞き慣れない書類だった。年金に所得税がかかる人は毎年、さまざまな控除を受けるためにこの申告書を出す必要がある。対象者には機構から書類が送られるので、それに記入して戻すやり方だ。
年金問題に詳しく「年金博士」とも呼ばれる社会保険労務士の北村庄吾氏は、申告書の重要性を指摘する。
「きちんと申告しなければ、控除額は少なくなります。収入から差し引かれる税額が高くなり、受け取る年金額も減ってしまいます」
控除を受けられないだけでなく、所得税(復興特別所得税含む)の税率が5.105%から10.21%と倍になる。申告しなかったときの不利益は予想以上に大きいのだ。機構によると、最大で年間30万円ほど損するケースもあり得るという。
この大事な書類を、機構は昨年8月下旬から9月上旬にかけて、老齢基礎年金受給者の2割強にあたる795万人に送った。ここに大きな問題が潜んでいた。