肛門が残せても肛門機能は手術後、全く元のままを維持はできないと伊藤医師は説明する。

「ISRの術後の肛門機能の回復度は、手術前の70%くらいがゴールですと患者さんには説明しています。1日3~5回くらいの排便です。もちろん個人差があるため一概には言えませんが、手術直後の機能障害は、約5割の人では1日に便通の回数が10回以上という状態で、約5割の人は毎日漏れている状態です。しかし2年後にはそれぞれ1割、5%程度になります」

 便が硬いと十分トイレに間に合うが、ゆるいと多少漏れることもあるという状態がほぼゴールだという。

「仕事はできますし、スポーツや海外旅行も大丈夫ですが、許容度は患者さんによって変わります」(同)

 伊藤医師らは、術前放射線治療をした人、男性、括約筋を広範囲に切除した人、いずれかに該当すると、肛門を残しても機能が損なわれるという報告を、数多くの症例に基づき発表した。

「放射線をかけると肛門を締める筋肉の線維化が起こります。男性という要因は明確ではないのですが、男性は内側の括約筋に対する寄与度が高いのと、骨盤内が女性に比べて狭いので手術が煩雑になるとの予測があります。縫合不全も男性のほうが多く、それが治る過程で肛門周囲組織が硬くなり、良好な肛門機能が保持しにくくなるのです」

 現在、伊藤医師らはISRの全例を腹腔鏡手術で実施している。

「骨盤の奥のほうの構造をよく見て、神経や臓器を温存しながらがんを取り切るためには腹腔鏡手術が適しています。モニターを通じて手術スタッフが皆、手術部位の情報を共有できるのも大きいのです」

 ISRの発展形として、現在注目されている手術がある。伊藤医師らが取り組み、全国の医師への手術指導もおこなうTaTME(経肛門的全直腸間膜切除術)だ。今までに通算約250例を実施している。

「おなか側とお尻側、両方から腹腔鏡を入れておこなう手術です。この術式は、より微細に肛門管の組織のしくみを観察でき、おなか側からアプローチすると絶対見えない前立腺なども見ながら手術ができます。そして、直腸間膜というがんとの距離を取る適切な切離ラインに入って、腫瘍の領域や進行度に合わせて調整しながらおこなえるのがメリットなのです。骨盤の狭い男性や肥満の人に適しています。おなかから一番遠いところはお尻から一番近いというあたりまえのことを実現させている手術です。この手技を習得すれば、難しさを克服できます」

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