妻:それが幸いしたのよね。
夫:子どもたち3人とも、妻の実家ではたんすのある部屋で寝ていたんです。もし、連れて帰っていなかったら、翌朝たんすの下敷きになって圧死していたでしょう。家に帰って、一番下の長男は、その日は私たちと一緒に寝かせた。長男の部屋にもたんすがあったから、命があるのは僕のおかげ。幸い、家族は誰一人犠牲にならずにすみました。
妻:あの朝、ドーンと突き上げるような揺れが来て、次の瞬間、主人は、隣で寝ていた息子と私に覆いかぶさってくれました。
夫:しばらくは、父親の威厳が保てたなあ。あの威厳は、いつからなくなったんだろう(笑)。
妻:自宅にガスがなかなか通らなくて、お風呂に入るために、熱帯魚用のヒーターを使って水を温めていました。本当はそんな使い方しちゃだめなんですが。
夫:大阪に買いに行くと、お店の人に「お風呂を沸かすのに使ってはいけませんよ」とくぎを刺された。なんで僕たちが神戸から来たってわかったんだろうねえ。
妻:神戸は鉄道もしばらく復旧せず、道路も寸断され、がれきだらけ。営業再開のために夫は、自宅から店までバイクで通ってた。夜、帰ってくるとエンジンの音がするんですね。家族みんなで「おかえりなさい」って出迎えました。
夫:毎朝、地震のあった時刻に目覚めてね。
妻:緊張状態が続いていたと思う。毎日“ハイ”で、そばで見ていても本当に大丈夫かなって心配でした。
夫:営業再開の日の朝、交通手段もないのにお客さんが来るのか不安になりました。でも、10時にシャッターを開けると、どっと人が入ってきた。お客さんが僕の手を握って「こんなときによく開けてくれた。ありがとう」って。本当に、本って喜ばれるんだなって実感した。社員にも「社長、本屋やっててよかったね」と言われましたよ。
※「ナベツネ、塩爺も利用する店をジュンク堂社長夫人が任された理由」へつづく
(聞き手/本誌・鎌田倫子)
※週刊朝日 2018年5月4-11日合併号より抜粋