「神武以来の天才」と呼ばれ、お茶の間では「ひふみん」の愛称で人気の加藤一二三九段。奥様への感謝や引退時のエピソードを作家の林真理子さんが聞きました。
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林:プロ棋士でクリスチャンの方は、先生お一人ですか。
加藤:確かめていませんけども、1人か2人はいます。
林:先生が約2500回の対局に心血を注ぎ、魂を込めてやってこられたのは、信仰によるところが大きいですか。
加藤:それと、なんと言いましても妻の支えです。対局前日の食事はメニューが決まっていまして、いかなるときも妻が手抜きすることなく食事をつくってくれました。私が2505局戦ってこられたのは、明らかに妻の支えがあってのことです。
林:先生は、今日もそうですけど、その長いネクタイがトレードマークですよね。
加藤:私は平成29年6月20日に負けて引退したんですけども、その前に、報道陣に私は「6月20日の対局は、いかなる結果になっても記者会見をしません」と言っていたんです。そして6月20日、どうしても勝つ見込みがなくなった段階で将棋会館を去ることを決めまして、しかるべき手順を踏んで家に帰りました。長年苦楽をともにしてきた妻にまず「負けた」と伝えるべきだろうと思って、そのとおりにしたんです。そうしたら妻が「お疲れさま」と言ってネクタイをプレゼントしてくれました。妻もある程度覚悟していましたから。
林:素晴らしい奥さまです。